ポーランドで新しい人と知り合い、まず聞かれるのが”Why are you in Poland(なんでポーランドにいるの)?”、そして「ポーランドに来る前、オーストラリアで働いていた」と話すと、よく訊かれるのがなぜオーストラリアから去ってポーランドに来たのかということ。「ポーランドからオーストラリアへ移住するのは普通だけど、その逆をするのはかなり珍しいよ」、みたいな感じで。
オーストラリアで働いていた最後の数か月の間にも、同僚や、会社が入っているビルで会う顔見知りや、ハウスメイトから逆のことを訊かれたことがありました。「なんでポーランドへ行くの?」「普通逆じゃない?」と。
さらに、オーストラリアから出国する直前、学生時代の級友3人(全員留学生)に会った時も、「えー勿体ない!」「永住権を取るまで待てばいいのに!」「なんでオーストラリアよりも所得が低い国へ行くの?」と全員驚いた反応をしていました。
一人当たりの所得で言えば、オーストラリアはポーランドよりも遥かに上です。それに加えて、経済的な将来性もオーストラリアの方が良いんじゃないかと思います。オーストラリアには毎年何万人もの人間が永住権を申請するのに対し、ポーランドでは若い世代が賃金の高い西側へ出稼ぎへ行き(あるいは移住し)、労働力が減る一方なのです。
それに加えて、私はオーストラリアを去ったことで、それまでオーストラリアで積み立てていた年金も解約せざるを得ませんでした。「老後の為に、今から何かしなくては…」と思い、投資信託を覚えようとしていたこともあったのですが、日本の証券会社からもオーストラリアの会社からも「あなたが別の国に住むなら、口座を開設できない」と断られてしまいました。そんなわけで、オーストラリアを去って以降、私は年金らしいものは払っていません。100%自分で自分の老後の世話をしなければならないことについて、少し不安を覚える時があります。
確かにオーストラリアの方が生活水準は良いです。将来性もあります。永住権を取ってりゃ投資信託も始められたし、今から老後の心配なんぞしなくてもよかったかもしれません。
そんな経緯があり、私はたまに「オーストラリアを去ったことを後悔してるか?」みたいなことを自問自答します。が、その答えは毎回「してない」です。
オーストラリアに住み続ける意義
もうこのブログで話したことがありますけど、私がオーストラリアへ行った目的とは、①英語を覚え、②手に職をつけ、③海外(できたら英語圏)で職歴を積むことでした。
オーストラリアに居た最後の半年頃、私はオーストラリアに住み続ける意義について何度も考えました。『俺は海外で働けるようになるためにオーストラリアへ来たんだ…けど、それを達成した今、これ以上この国に居続ける意義って何だろう』と。
- 『彼女は?』いない。
- 『交友関係に恵まれてるか?』全然。
- 『どうしてもオーストラリアじゃできないことってある?』別に。
- 『日本でサラリーマンだった頃と違ってワークライフバランスの取れた生活を得ることができた。でも、これってオーストラリアじゃないと実現できないことだろうか?』そうでもないんじゃないかな。
…といった具合に。が、特に(仕事・年金関係以外で)意義らしいものは何も見つかりませんでした。
注:なんだかまるでオーストラリアの悪口を言ってるように聞こえるかもしれませんが、そんなつもりは微塵もありません。私がオーストラリアに向いてなかっただけであり、あなたにとってはオーストラリアは素晴らしい国かもしれません。あなたがオーストラリアに向いてるかどうかは、あなたがそこへ行くまでわかりません
人生の中心って老後なのか?
苦労自慢をするつもりじゃないんですが…私は日本でサラリーマンだった頃からオーストラリアで職を得るまでの約5年間、結構禁欲的に生きてきました。『〇か月後までにIELTSで〇点取らなくてはならない、だからそれまで勉強時間を確保するためにYoutubeやSNSを見ないようにする』とか、『留学の資金を貯めなくてはならない、だから〇百万円貯まるまでは外食は我慢だ』とか。それと同じ理屈で、『オーストラリアと他の国を自由に行き来できたら便利なんじゃないかな?だから永住権を得るまでここに居続けるべきだ』と考えたこともありました。
が、オーストラリアで会社員生活を送っていく内に、自分の考えが間違ってるような気がしてきました。だって仕事と老後の為の資産以外で、オーストラリアに住み続けることに意義が見つからないのですから。「年金以上に、それまでの時間が勿体ないのでは?」「俺の人生の中心って老後なのか?」、と。
例えば、「豊かな老後と貧しい老後、どちらを望む?」と訊かれて、後者を望む人はいないでしょう。じゃあ、「豊かな老後を得るために、理想の人生を追う事を諦められる?」と訊かれたら?
例えば、あなたが今30歳で、寿命が80歳だったとしましょう。で、ヤバいウイルスに罹ったり、あるいは交通事故に遭って、40(あるいは50)歳くらいで人生を終える事になっていたとしたら?
老後の備えがあった方がいいのは当然です。でも老後を迎える保証は誰にもありません。(そういえば、今年コービー・ブライアントが事故に遭って死んだのは結構衝撃的でした。彼のファンだったからじゃなく、「人って若くてもあっさり死ぬんだな」という意味で)
プログラミングに救われた
『老後は人生の中心じゃない』ということと合わせてもう一つ気付いたことが、『俺には世界中で使える、プログラミングという特技があるじゃないか』ということでした。
このブログで何度も話したので、『またその話かい』と思われるかもしれませんが…プログラマは比較的賃金も良くてビザも出やすい職業です(少なくとも、オーストラリアとポーランドでは)。実際、LinkedInやStackoverflowみたいなサイトで『現地語がわからなくても英語が理解できれば応募できる開発者のポジション』はたくさん見つかります。
オーストラリアで永住権を取るチャンスを手放すのはすごく勿体ないような気がしましたし、(既に話した通り)それまで積み立てていた年金を取り崩すのは結構恐ろしい決断でした。が、私は結局やりました。『お金はまた稼いで貯めればいいさ。俺エンジニアだから給料はいい方だし、普段から贅沢しないし。でも去った時間は返ってこないよ』って。
これはあまりいい例え話じゃないんですが…もし私が紛争地域出身の人間としてオーストラリアに住んでいたのなら、オーストラリアの永住権を取る事だけに集中していたと思います。彼らにとって、オーストラリアのような国の一員になれる事はすごく価値のある事でしょうから。
が、私にはプログラミングというありがたい技能、それに加えて日本のパスポートがありました。行きたい国があっても、お金の都合やパスポートの制限でそれができない人は世界中にたくさんいます。その一方、私には世界中で需要のある技能+世界中で受け入れられるパスポートがあります。その特権を無駄にしちゃいかんよな、と。
あなたにとって理想の生き方とは、あなたにしか決められない
「毎日定時で帰れて、有給を全部取れて、人並み以上に給料もらえる人生って、さぞ素晴らしいんだろうな」
みたいなことを、私は日本でサラリーマンだった頃にしょっちゅう考えていました。私自身も周囲の人たちも、ウンザリした顔で、大嫌いな客を相手に、毎日夜遅くまで働いていましたから。しかしながら、不思議なことに、実際に『定時帰りの毎日』を手に入れた後、期待していたほど喜びは長続きしませんでした。
「俺は『社会人なら文句言わずに働くのが当然』だの『俺が若いころはお前よりも残業してたんだ』だの言ってたあの中高年の連中に屈しなかった。俺は自分の理想の生き方を手に入れたんだ。けど、ただ定時で帰れるだけの毎日って、何か意味あるの?俺、他に何かやりたいことないの?」…って。
もし、あなたにとっての理想の生き方が『先進国でワークライフバランスの取れた生活を送ること』でしたら、それを追求すればいいと思います。ただ、私はそれだけじゃ何かが足りない気がして仕方がなかった。他の国の生活も体験してみたかった。特にヨーロッパでの暮らしに興味があった。日本人が少なそうな場所なら、尚さら面白そう。永住権を取るチャンスと年金が勿体ないけど…もうこれ以上ここで時間を費やしたくない。
オーストラリアを去ったことを後悔しているか?していません。むしろここへ来て大正解だったと思っています(ポーランドの暮らしに多少の不満はあるけれども)。英語とプログラミングを勉強してきたおかげで、(老後の話は別として)経済的にも困っていない。周りの人たちに合わせて永住権を取れるまでオーストラリアに居続けたら、『あとxヶ月の辛抱だ』と、今頃まだ望まない人生を送っていたかもしれない。
もし、あなたの興味や価値観があなたが今いる場所に合わないけれど、「どこか別の所へ行こう」と行動する気力が湧いてこないなら、「今の人生を続けていったら、何が犠牲になるだろう?」と自分に尋ねてみればいいかと思います(”あなたが今いる場所”とは、国じゃなく学校や職場でもいいです)。人にとってはお金だったり転職の機会だったりするかもしれません。私にとってそれは時間でした。
そして、移動の自由を得るために、緊急時の為の預金と稼ぐための技能があった方がいい。”稼ぐための技能”は、それで稼げるならなんでもいいです。アフィリエイトでもYoutubeでもドロップシッピングでも。私の場合はプログラミングです。
『今はコロナのせいで日本から出れない』?『景気が悪いから転職できない』?じゃあ自由に移動ができる日が来る時に備えて、今から語学の勉強やスキルの習得を始めるべきだ。『どこか遠くへ行けるほどお金の余裕はない』?じゃあ今から貯金を始めるべきだ。携帯を格安SIMのものに替えるとか、酒を飲む機会を減らすとか、実家で暮らすとか、出費を減らす方法はいくらでもある。出費を減らせれば、収入を増やせなくても貯金は増やせる。
何かに興味があるなら、あまり遠回しにしすぎず、試しとかないともったいないですよ。あなたの人生どうせいつか終わるんだし、その『いつか』はわりとすぐかもしれませんよ。


いつもためになる記事を投稿してくださりありがとうございます! ほとんどの記事を読ませて頂いています:)
私はオーストラリアに留学して移住したいと思っており、国境が開けば留学しようと計画中です。
海外就職・移住という大きい目標を持つと、時間やお金など、いろいろと犠牲になるものもありますよね・・。
私も高橋さんと同じ文系大学卒業で、今はwebディレクターの仕事をしていますが、海外で働くためにエンジニアにキャリアチェンジをしようと考えています。やりたいことと海外で求められる職のギャップに落ち込みましたが、やっぱり移住したい気持ちが大きいので、努力していこうと思います。
これからの投稿も楽しみにしております!
みみさん
こんにちは。こちらこそブログを読んでくれてありがとうございます!
>今はwebディレクターの仕事をしていますが、海外で働くためにエンジニアにキャリアチェンジをしようと考えています。
私はwebディレクターについてはほぼ何も知らないのですが、海外で仕事を得る為にエンジニアに転身するのは有効な戦略だと思います。
良い決断ができるよう、応援してます!