かつて『ニートの海外就職日記』と呼ばれるブログが存在しました。タイトルの通り元々ニートだった方が書いていたブログだったのですが、どんな方だったかと言うと…
- 著者(『海外ニート』氏)は日本で大学を出て就職するも、過労死上等の長時間労働や有給取得不可能といった日本の労働文化についていけず、ニートになってしまう
- パチスロと派遣労働(って本人言ってたはず)で生計を立てつつも、「このままじゃ駄目だ」と一念発起したニート氏はオーストラリアへ語学留学
- 「自分は3流大学出身で勉強は全然してこなかったけど、英語だけは興味があったから真面目にやっていた」と語るニート氏は、渡豪後にめきめきと英語力を伸ばし、語学留学後に現地の専門学校でウェブデザインを専攻。卒業後はウェブデザイナーに転身し、オーストラリアの現地企業でフルタイムの職を得る
- ビザの都合でオーストラリアから出ざるを得なくなったニート氏はシンガポールへ移住し、現地企業で職を見つけワークライフバランスの取れた生活を送る
そんなニート氏が書いていたブログの内容とは、首尾一貫して日本の労働文化への批判でした。『残業が多すぎる』や『有給が取れない』といった話に加えて、手書きの履歴書(注)からみられる日本人の非効率な働き方など、あらゆる切り口から彼は日本の労働文化の批判を書き続けていました。
(注:”手書きの履歴書”と聞いて『何のこと?』と思った人がいるかもしれません。そのブログが存在したのは2010年前後の話です。現時点(2020年)ではもう日本でも履歴書をパソコンで製作するのは普通になったと聞きます。私は久しく日本で働いていないので、本当なのかどうか知りませんが)
サビ残、休日出勤当たり前、有給も満足に取れないようなエグイ環境で理不尽に耐えながら馬車馬のように長時間労働を強いられてる国が、連日定時退社、有給完全消化でワークライフバランスの取れた国に国民一人当たりGDPで遥かに後塵を拝してるんだから何かがおかしいに決まってるよな
— ニートの海外就職日記(海外ニート)bot (@jobisshit) March 24, 2020
その一方、オーストラリアやシンガポールでは(「仕事はクソ」と言いながらも)ワークライフバランスの取れた生活を楽しんでいるようでした。ここ(オーストラリアやシンガポール)では有給は完全に消化するのが当たり前、定時退社は当たり前、日本のような『過剰なお客様至上主義』は存在しない、既卒の人間でも価値のあるスキルを身に着ければ職にありつけるから就活でうまくいかなかった人もキャリアを挽回しやすい等々。
私は社会人2年目の頃(2010年)にこのブログを見つけてしまいました。仕事量が急激に増え、サービス残業をせざるを得なくなり、「なんでみんな平気な顔してこんなに残業できるんだ?」と自分の置かれた境遇が嫌になっていた時期でした。当時の私は、このブログを読んで後頭部を金属バットで不意に強打されたかのような衝撃を味わいました。
私はこのブログにのめり込みました。なぜって…当時の私の関心ごとと言えば、まず「サービス残業したくない!こんな人生を60過ぎまで送る事なんて考えられない!どうすれば今の生活から抜け出せる?」、そして「色んな国へ行ってみたい」の2つでしたから。このブログの主題(=海外へ行って日本の過酷な労働文化から卒業しよう)は自分の関心と完全に合致していました。
(これを書くと自分でも「ちょっと気持ちわりーな俺」って思ってしまうんですが…私は『ニートの海外就職日記』を1番初めの投稿から最後の投稿まで全部読みました。これまでバックパッカーのブログや海外移住者のブログの読者になったこともあるんですが、自分が今まで全部の投稿を読んだことのあるブログは『ニートの海外就職日記』だけです)
『ニートの海外就職日記』は人気のあるブログのようでした。新しい記事が公開されたら、1日も経たないうちに何10件もコメントがついてるなんてザラでした。芸能人のブログ並みですね。投稿内容は毎回日本の労働文化の批判、そしてコメント内容はそんな批判に対する共感といったもの。
「こんなブログ(←失礼な言い方ですいません)にここまで反響が来るってことは、日本の労働慣習が受け入れられない人ってたくさんいるんだろうな」と、想像するのには難くなかったです。
が、そんな人気ブログにも終わりが来ます。
ある日、通勤電車の中で『ニートの海外就職日記』を携帯から見ようとすると、記事が全部無くなってており、その代わりにトップ画面に以下のような文言が。
「ブログが原因で命の危険を感じる出来事があったので、ブログを閉鎖します」
「更新を楽しみにしてくれていた皆さん、ごめんなさい」
残念だったのは言うまでもありません。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、当時の私にとって『サービス残業が常識となっている社会から抜け出すための具体的な方法』を示してくれた唯一の存在があのブログでしたから。
それ以降、私はブログというものへの関心を失っていきました。その代わり、「今の俺の人生に必要なのは勉強と貯金だ。他人のブログじゃない」と留学への準備に集中しようと決めたのです。
時は経ち…
「自分が今まで(オーストラリアで働けるようになるまでに)やってきたことをブログにしたら、昔の自分みたいに『海外で働けるようになりたい』って思ってる人の参考になるかも?」と思い、私はこのブログを始めました。2018年のことでした。
海外での就職を目標に掲げてからこのブログを始めるまでの間、私はできるだけ日本語でネットをしないようにしていました。「日本語のウェブサイトばかり見てたら、英語を使う能力が伸びないかもしれない」と思いこんでいたので。が、自分自身がブログを書くようになった今、他の海外移住者(日本人)のブログもたまに読むようになりました。それでも、『ニートの海外就職日記』を読んだ時ほどの衝撃はまだ味わった事がありません。
じゃあ『ニートの海外就職日記』の何がそんなに良かったのかって?
ニートの海外就職日記の良かったところ
1つ目:社畜文化から脱出する方法を示してくれた
さっきも話した通り、あのブログを読んでいた頃、「こんな環境で定年までサラリーマンなんて続けられない」と、私は自分が置かれていた環境が心底嫌でした。それに加えて、そんな社会じゃないと生きていけない自分に対しても不甲斐なさ、情けなさを感じていました。『「サービス残業なんて間違ってる」とか言うのはお前の自由だけど、お前会社辞めたらどーすんの?』と、私は自分によく問いかけていました。
私はサービス残業が嫌でした。でもどうすればそこから脱出できるかわかりませんでした。そんな私に『サービス残業したくないなら、それが無い社会で働けるようになれ』という解決策を提示してくれたのがあのブログでした。
2つ目:三流大学出身の凡人でも、語学と手に職があれば勝機があるということを教えてくれた
プロフィールでも書いた通り、私はかつて『海外で働く=一部の優秀な人にのみに許された生き方』だと思っていました。が、上述の通りニート氏も私と同様に三流大学出身だったということは、私にとって希望を与えてくれました。
3つ目:言葉選びのセンス
「よくそんな言葉思いつくなぁ」と感心してしまう位、彼にはブラックジョークを言うセンスがありました。日本人の度が過ぎたお客様第一主義を『奴隷型顧客満足度第一主義』と呼んだり、有給を取りたい人間に対する無言の圧力を『みんなで休まず、みんなで不幸になろうキャンペーン』と呼んだり。
もちろん過剰なまでの「奴隷型顧客満足第一主義w」のしわ寄せは従業員にやって来る。たかが仕事で休日返上? プライベートの予定全部キャンセル? ああ、マジで日本じゃ仕事「様」最強だなw
— ニートの海外就職日記(海外ニート)bot (@jobisshit) March 20, 2020
逆に、ちょっと残念だなと思ったところ
ニートの海外就職日記からは「海外へ出ればサービス残業から解放されるかもしれない」という希望を貰えた一方、少しだけ残念だったのが彼は海外生活の苦労話やデメリットを一切してくれなかったことです。
例えば、オーストラリアは物価が物凄く高いのに、語学学校や専門学校の学費をどう工面したのかまでは話してくれませんでした。なので、オーストラリアの学費を調べている間、彼の話が創作みたいに思えてきたこともありました。「パチスロで食いつないでいたニートがこんな大金を用意するなんて無理じゃない?本当にこの人が言ってることを鵜呑みにしていいのか?」と。
(もしかしたら、彼がオーストラリアに居た頃はそれほど物価が高くなかったのかもしれませんが)
私の勝手な想像なんですが、彼が海外移住のデメリットや苦労話を書かなかった理由は、読者の期待に応えるために『日本の労働環境=悪、海外の労働環境=善』という自分のスタンスを貫きたかったからなんじゃないかなと。
彼のブログの読者の大多数は『日本の労働環境は劣悪だと信じたい人達』であり、彼らがニート氏に期待していたことは日本の労働環境についての批判を書いてくれることだけだったはずです。それが『海外移住は長期的に自分を幸せにしてくれるか?』みたいな冷静な話を急に書いてしまったら読者の多くは興覚めしてしまったことでしょう。
え、「お前はどうなのか」って?私は
- ワークライフバランスの取れた生活を望むなら、海外での就職はあり
- 三流大出身の凡人でも、需要のあるスキル+語学を身に着ければ海外で働くことは夢じゃない
という点ではニート氏に同意です。が、その一方で
- 今の生活を手に入れるまでに犠牲にしたもの(お金、時間、交友関係など)
- 日本から離れることで失ったもの
といった事もバランスよく書いていきたいなと思ってます。以前少し書きましたが、私はサービス残業から解放されることだけを海外移住の目的にすることを勧めたくないからです(詳しくは以下の記事にて)。

最後に
『ニートの海外就職日記』は、私にとって生涯記憶に残るであろう素晴らしいブログでした。もしニート氏がこれを見ていてくれたなら…面白い話をたくさん書いてくれてありがとうと言いたいところです。10年前、日本で社畜だった男より。
同じくニートの海外就職日記に触発されて人生が変わった者です。
彼のブログ閉鎖は今でも残念に思っていますが、彼の思想を受け継ぐ方がいらっしゃってとても嬉しいです。
応援していますので頑張って下さい!
てすさん
コメントありがとうございます!
>同じくニートの海外就職日記に触発されて人生が変わった者です。
マジですか。めっちゃ親近感湧きます!
今後もマイペースに更新していきますんで、末永くよろしくお願いします 😀
はじめまして
私も彼に影響をうけました、確かサッカーをしていてゴールした瞬間に人生が変わったみたいな話を覚えています。
このようなサイトをつくっていただきありがとうございます。
未経験でもルートを切り開いていけば技術者になれるということを示していただいたのは、日本人にとって希望になったと思います。
私も一年以内に海外移住できるよう準備を進めています。
youtubeなどはやられないんでしょうか?技術職×ヨーロッパ移住で需要はありそうですが、、。
ますさん
こんにちは。こちらこそブログを読んでくれてありがとうございます。
>youtubeなどはやられないんでしょうか?技術職×ヨーロッパ移住で需要はありそうですが、、。
やる予定ないです。もうすでにやっていることがたくさんある(プログラミングと語学の習得、資産運用の勉強、このブログ等)ので、これ以上新しい活動を増やしたくないなぁと。
>私も一年以内に海外移住できるよう準備を進めています。
うまくいくといいですね。健闘を祈っています!移住後はブログ(かYoutube)を是非始めてみてください(笑
ふと思い出して「ニートの海外就職日記」で検索したら、この記事が出て来て、懐かしい気持ちで読ませていただきました。海外ニート氏のブログに触発されて10年前にシンガポールの外資へ転職した者で、現在はベトナムに住んでいます。
エンジニアではないですが私も専門職で、当時オーストラリアでの就職も考えていましたので、主様のブログを読むことで自分が欧米圏へ移住したケースを疑似体験できた気がして非常に興味深く感じました。
今でも「ニートの海外就職日記」には感謝してもし切れません。主様のブログが、今現在、海外就職を考えている方々の道標となることを願っております。
ニートの海外就職日記に触発され、日本脱出、シンガポール在住8年、インドネシア在住3年目になる者です。
シンガポールにて、日系を踏み台にして外資転職を繰り返し、キャリア構築はそれなりに成功しました。ここに至るまでには自身の努力(語学、専門職スキル習得)と周囲の人の支援もありますが、自分の精神的な障壁を打ち破る最後の一押しはニートの海外就職日記でした。
「仕事なんてクソだぜ」その通りです。
匿名のブログで人が救われるなんて信じられませんでが、私は救われたうちの一人です。こちらのブログが第二、第三のニートの海外就職日記になることを期待します。
はじめまして。私も仕事1年目の時に海外ニート氏に影響を受けて、同じくオーストラリアへ渡り、今は海外で起業するに至りました。
彼のブログがなければ今の私はいませんし、会社を経営しておきながら早くリタイアする日をカウントダウンしています。
海外ニート氏のお陰もあり、日本で公務員をしていた頃に感じていた「仕事がクソ」が、「仕事はクソだが、そんなもん」に格上げされました。