最近、勤め先が確定申告の方法についてのオンラインセミナーを外国人の社員向けに行った。現在チェコでは確定申告の時期なのだ。
予定されていたセミナーの内容が終わった後、司会者に俺はこんな質問した。
「私は配当金が自動で再投資されるタイプのETFを買っています。これって申告する必要あるんでしょうか?」
そのセミナーが終わった後、チェコ人っぽくない名前の女性が「あなた、ポートフォリオ持ってるの?」とMS Teamsで尋ねてきた。(MS Teamsとはオンライン会議やチャットをするためのソフトウェア。企業向けのSkypeやSlackみたいなもの。)この人はそのセミナーで俺の質問を聞いたのだろう。この人はドイツ人で、「自分もETFや株に興味があるけど、証券口座をどこで開くか、あとチェコとドイツのどっちに税金を払えばいいのかわからない」とのことだった。
今まで自分が投資と税金について知ってることをこの人に教えてあげた後、しばらくMS Teamsでこの人とチャットした。俺が「どうしてドイツからチェコへ来たの?」と尋ねたところ、彼女は「ドイツで働くのが嫌だから」と答えたのだ。
自分にとっては意外な回答だった。ドイツと言えば一人当たりの所得も高いしワークライフバランスも良いと聞く。実際、俺もチェコに来る前にはベルリンを転職先の候補地にいれていたのだ(その時の話)。が、この人が言うにはドイツだと
- 税率が高すぎるから手取りの給料はそれほど高くならないし
- おかしな保険に強制加入される
らしい。
このドイツ人は「おかしな保険」が何なのかについては話さなかった。が、ドイツの税率については俺もネットで調べたことがあったので、ドイツの所得税はチェコのそれよりも高いことは知っていた(し、ドイツではそのうえ教会税なるなんだか得体のしれないものまで取られるそうなのだ)。
「あなたがベルリンじゃなくてプラハを選んだことについて私は驚いていない」そのドイツ人は俺にそう言った。
「でも、正直言うと俺まだベルリンにちょっと興味あるんだよね。それに税金が高いってことはその分公共のサービスのレベルも高い気がするんだけど、それについてはどう思う?」と俺は彼女に尋ねたが、彼女はそれについては答えなかった。
その後日、ドイツおよび他の西欧諸国での平均的なソフトウェアエンジニアの額面年収と手取り年収がどのくらいなのか気になった。例のドイツ人が「あなたの仕事ならプラハで働いた方がずっと給料を手元に残せるから、(金銭的には)あなたはこの街で働いた方がいい」と言っていたから、本当なのか調べてみたくなったのだ。
そこでイギリス・ドイツ・オランダ・スウェーデンの4か国を対象に、ソフトウェアエンジニアの平均額面年収、およびその年収を貰えた場合の2023年時点での推定手取り年収をネットで手に入る情報をもとに調べてみた。
(なぜこの4か国だけが対象なのかいうと、今の自分の技術スタック(React, Node, AWS)にマッチする求人がこれらの国で多く見つかるから。スイスやノルウェーは賃金が高いので調べてみようかと思ったけど、仕事の数自体があまり多くないので止めといた。)
結果は以下の通り。
国名 | ソフトウェアエンジニアの平均額面年収 | ←の額面年収を貰えた場合の推定手取り年収 | 手取り÷額面 |
イギリス | £39,079(617万円) | £30,597.92 (483万円) | 0.78 |
ドイツ | €55,804 (792万円) | €34,315.17 (487万円) | 0.61 |
オランダ | €49,298 (698万円) | €36,657 (520万円) | 0.74 |
スウェーデン | kr 489,501 (608万円) | kr 345,180 (429万円) | 0.70 |
- ソフトウェアエンジニアの平均額面年収はpayscale.comで今日記載されている情報です。payscale.comは匿名のサイトなので100%正確な情報が載っている保証はないことをご承知ください。上記の表の金額にリンクを貼っておいたので興味があったらクリックしてみたください。
- 推定手取り年収は”net salary calculator {国名}”みたいな語句でググったら出てきたサイトを元に計算して算出された金額です。記事の最後にリンクを載せます。
- 為替レートは全部この記事を書いている時点のものです(1英ポンド=158.13円、1ユーロ=142.04円、1クローナ=12.44円)。
- イギリスの場合、年金受給資格のある年齢に達しておらず、デフォルトのTax codeを使い、the Scottish Income Tax Rateが適応されないことを前提とします。
- ドイツの場合、独身・子無し・35歳・ベルリン在住・健康保険料が1.6%・健康保険と年金保険と非雇用保険が全て義務として加入するものを利用していることを前提とします。
- オランダの場合、30%ルールが適応されないことを前提とします。
- スウェーデンの場合、ストックホルムに在住していることを前提とします。
ふーんなるほどね。
これだけ見るとドイツでの所得にかかる税金は高いように見える。チェコの物価はドイツのそれよりも低いし、今の自分の勤め先から出る賃金の中で手元に残るのは77%くらいなので、「あなたの仕事ならプラハで働いた方がずっと給料を手元に残せる」といってた例のドイツ人は間違ってないかもしれない。
ちなみにドイツでは既婚で子供がいると税率が下がるらしいので、条件を(1)既婚で結婚相手と一緒に住んでいる(Category 3)、(2)Tax cardの載っている子供の数が2人いると仮定した場合手取り年収はどうなるか調べたら結果は€39,318.81だった。39,318.81 ÷ 55,804が約0.70なので、毎月手元に残せる額も0.9%増える。所帯持ちの人にとってはドイツでの就職は魅力的な選択肢な一方、独身だと金銭的なメリットは小さいように思える。
あと、個人的に驚いたのは他の3か国の税率の低さだ。西欧諸国=税金高いみたいなイメージがあったからだ。(特に北欧諸国は重税国家と聞いてたので、この4か国の中でスウェーデンが一番手取り÷額面が低くなるんじゃないかと予想していた。)どこも累進課税制度を採っているので、額面年収が(日本円で)1千万円くらい行けば税率も大きく上がるんだろうけど、普通のエンジニアが普通のIT企業で働く分にはあまり税金を気にしなくてもいいんじゃないかという気がしてきた。
最近プラハの暮らしに馴染んできたしチェコ語の勉強も面白くなってきたんで、来年以降に転職する際もプラハの企業を中心に応募しようかと思ってた。…けど、このデータを見つけたからイギリスやオランダも選択肢に入れていいんじゃないかという気がしてきた。
追伸
推定手取り年収を計算するために利用したウェブサイトは以下の通り。